「手術の同意書にサインする人がいない」——そのとき、誰が決めるのか

文・御嶽亜由美(みたけ行政書士合同事務所)

急な発熱で救急搬送された、あるいは持病の治療で入院が決まった。手続きの窓口で、こう聞かれることがあります。「緊急連絡先の方は」「手術の同意書にサインいただける方は」。

ひとり暮らしで、頼れる家族が近くにいない。あるいは、認知機能の低下が少しずつ進んでいて、自分で判断することに不安がある。

そんなとき、「誰かが代わりに決めてくれるはず」と思っていませんか。


「後見人がいれば大丈夫」ではない

実はここに、大きな誤解があります。任意後見人や成年後見人は、入院の手続きをしたり、医療費を支払ったりすることはできます。しかし、「この手術を受けるかどうか」という治療そのものへの同意は、後見人であっても法律上できません。

医療への同意は、本人にしかできない権利だからです。これは家族であっても、専門家であっても、代わりに行使することはできません。「誰かに頼んでおけば安心」という考え方自体が、実は成り立たないのです。


現場は、実は困っている

とはいえ、医療の現場が止まってしまうわけではありません。予防接種や一般的な投薬、健康診断などでは、実務上、後見人や家族が同意を求められることがほとんどです。法的にはグレーな部分を、現場の判断で埋めているのが実情です。

ただし、本人の意思がまったくわからない状態では、医療・ケアチームも判断に迷います。「この方は、どんな治療を望んでいたのだろうか」——それがわからないまま重い決断を迫られるのは、医療者にとっても負担の大きいことです。

この問題は個別の医療機関だけの話ではありません。厚生労働省も2019年にガイドラインを発出し、身寄りのない方への対応指針を示しているほどです。それだけ、現場にとって切実な課題だということです。


今、できること

同意権そのものは誰にも渡せません。しかし、自分の考えを事前に言葉にして残しておくことはできます。

尊厳死宣言(リビングウィル)

「延命治療は望まない」といった終末期の意思表示を、公正証書や登録制度を通じて残す方法があります。法的拘束力はありませんが、医療機関の対応や治療方針の判断材料になります。

任意後見契約のライフプラン

任意後見契約の際にライフプランとして、治療方針や入院・療養に関する希望を書面にまとめておく方法もあります。同意権そのものではなくても、「本人がどう考えていたか」が伝われば、医療機関の選択や現場の対応が変わることがあります。

「決めてもらう」のではなく、「伝えておく」。おひとりさまの終活で、まず考えていただきたいことです。

当事務所の通常の面談は有料ですが、無料でご相談いただける機会も設けています。まず話を聞いてもらいたいという方は、お気軽にご連絡ください。

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